金利平価説の考え方
為替レートの決定において、金利平価説という理論があります。この理論は、2国間で金利差があった場合、期待される収益率はどちらの国に投資をしても同じになることを主張します。
例えば、あなたが日本の金利は低いから、金利が高いアメリカに投資すれば良いのではと考えます。確かに、日本の政策金利は-0.1%に対して、アメリカの政策金利は現在3%です。(2022/9/24時点)
これだけを見ると、円を売ってドル預金しておいた方が高い金利が付くのでドルを買いたいという人が増えますよね。実際に2022年9月、米国の急速な利上げにより米ドル預金の需要が高まっています。
ただし金利平価説によれば、金利の高い米ドルで預金したとしても為替損(ドルが円に対して下落する)によって、収益を得られないという考え方です。
つまり、金利差をみてどの通貨に投資しようと自国の通貨に戻した時には、高金利通貨の価値は低金利通貨に対して下落するため、利息の収益が相殺されてしまうということです。
(為替の収益「→」=利息「↑」+為替損益「↓」)
では「高金利通貨で運用しても意味ないのか?」と考える人もいるかと思いますが、あくまでこれは理論上の話なので、実際に短期的に見たときには高金利による高い利息によって収益を得ることは可能です。
このように低金利通貨を売却し、高金利通貨に投資することで金利差を獲得する戦略をキャリートレードと呼びます。
カバーなし金利平価とカバー付き金利平価の違いについて
次にカバーなしとカバー付き金利平価の違いについて、説明いたします。
カバーなしとカバー付きの違いの説明を見て困惑してしまう方が多くいると思います。カバー付きとカバーなしの違いは、先渡取引(フォワード取引)をして為替ヘッジしているのがカバー付き金利平価で先渡取引していないのがカバーなし金利平価です。
先渡取引を知らない方は、上記の説明では理解できないと思います。まず、わかりやすいカバーなし金利平価から説明いたします。
カバーなし金利平価というのは、単純にあなたが円を持っていたとして、円を売ってドルを買ってドル預金するという事です。先程冒頭で説明した、将来の高金利通貨の価値は、低金利通貨に対して減価するという考えと同じです。
つまり簡単な計算式で表せば
年率の日本金利 - 年率のアメリカ金利 ≒ 一年間の為替レートの変化率(ドル円)
となります。
−0.1% -(3%)が2022年9月時点の日米の金利差なので、+3.1%ほどアメリカの金利が高く、米ドルのほうが高い利息を得られます。ただし、1年後には3.1%、ドルが円に対して下落するので、結果ドルに投資しても収益が得られないというのがカバーなし金利平価の主張です。
では、そもそも何故、高金利通貨の価値が減ると考えられるのでしょうか?これは通貨の需給から説明できます。
もしドルの方が期待収益率が高いのであれば、日本人はいますぐに円を売ってドルを買います。そうすることで円安・ドル高になります。ただし1年後にその反対の売買を起こし円に戻すので、結果1年後には円高・ドル安となります。
このようにして、外国の高い利息を得たとしても需給によって利益が出なくなる水準まで為替レートが調整されてしまうので、国内で預金するのも海外で預金するのも一緒の収益率になってしまうのです。
この理論は、果たして実務で正しいと考えられているのでしょうか?長期的に見ればカバーなし金利平価説は、機能するというエビデンスもあります。ただし、この例であげた1年程度の短期間では、この理論と全く逆の現象が起きたりします。短・中期では機能しないというのが、一般的な見方です。
例えば、足許、米国が連続的に利上げをしています。日本との金利差が益々開いているので、高金利のドルは円に対して下落するというのがカバーなし金利平価の主張ですが、それとは反対に米ドルの高い金利が選好され、円安・ドル高は急速に進行しています。
したがって、この理論は短期・中期でみれば機能しないことの方が多く、あくまでも為替の理論で知っておく必要はあるものの実務で使うことはほぼありません。
では、次にカバー付き金利平価について説明いたします。
先ほどと同様、あなたの持っている円をドルに換えるというところまでは一緒です。ただしここでは、ドルに換えるのと同時に1年フォワード取引を行い為替リスクをヘッジします。そうすると国内海外の通貨どちらに投資しても収益率は変わらないと主張するのがカバー付き金利平価です。
ここで、1年フォワード取引で為替リスクをヘッジするとは???と理解できない人もいるでしょう。
より分かりやすく説明するため、1年フォワード取引(先渡取引)で為替リスクをヘッジすることについて説明します。
あなたは円よりドルの方が魅力的だと考え、円売り・ドル買いをして(1ドル=100円)、100ドル分のドル預金(年率の利息は3%です)を買いました。また、ドル預金購入と同時に1年フォワード契約を結び、1年後に103ドルを1ドル=100円と今と同じレートで交換することにしました。
すると、1年後ドル預金は想定通り利息3%を受け取り103ドルとなりました。フォワード契約により約束通り1ドル=100円で円とドルを交換できるので、103ドルを渡し、1万300円を受け取りました。
こうするとどうでしょうか、為替リスクなしで300円を受け取れましたね。ただリスクなしで利息をもらえるのであれば、ほぼ全ての投資家は同じような投資行動を取るはずです。
従って、カバー付き金利平価説では、上記のような裁定機会が存在する時、フォワード取引の需要が高まり円高方向に振れていき、利息分の利益が出なくなる程度のフォワードレートの水準に落ち着くと主張します。
つまり外貨預金と同時にフォワード契約で為替予約しても、金利差分のコストを払うようにフォワード価格が調整されるので上記のようなリスクなしの利息を受け取れないということです。
フォワードレートは下記のような計算式で表されます。
F = S * (1 + Interest japan) / (1 + Interest US)
F: 現在のフォワードレート、S:現在のスポットレート、Interest:金利
(スポットレートとは、2日後に受渡しが行われることを前提とした為替レート)
例として、Sは1ドル=100円、円金利(Interest Japan)は0%、ドル金利(Interest US)は3%とします。
すると1年フォワードレートは、100 *(1+0)/(1+0.03)≒ 97.0874
となり日米の金利差である3%が使われディスカウントされました。
では、今度はこのフォワードレートを使って、先程と同様に為替リスク無しで利息を得ることはできるでしょうか?
また、円売り・ドル買いをして(1ドル=100円)、100ドル分のドル預金(年率の利息は3%です)を買いました。ドル預金購入と同時に1年フォワード契約を結び、1年後に103ドルを現在のフォワードレートである1ドル=97.0874円で交換することにしました。
すると一年後に利息3ドルが付き103ドルを97.0874円で交換するので、
103 * 97.0874 ≒ 1万円が返ってきました。
結果、ドル預金してフォワード取引を行なっても利益は一緒になります。
こちらのカバー付き金利平価説は、実際のマーケットで成り立っていると考えられている理論です。実際には、この金利差分をディスカウントしてあげる以外にも上乗せ金利(ベーシス)が考慮されたりしますが、平常時であればおおよそ金利差分がディスカウントされると考えてしまって問題ありません。
まとめると、カバーなし金利平価では、1年後の為替レートは高金利通貨であっても減価し、利息分目減りしてしまうと主張する理論です。おそらく一年待てば高金利通貨の価値が減少すると考える理論なので、今この時点でそもそも正しいかどうかはわかりませんし、過去を振り返っても短・中期的には、高金利が好まれむしろ理論とは全く反対の動きをすることが往々にしてあります。
一方で、カバー付き金利平価は、今現在におけるフォワードレートは金利差分でディスカウントされることで、為替リスクをとらずに利息を受け取ることは不可能と主張する理論です。実際のマーケットでも、フォワードレートは概ね金利差分でディスカウントされます。ただしカバーなし金利平価とは逆に、1年後や将来の為替レートを予測するものではないので、今後の為替レートがどのように動くのかの予測には使えません。
補足として
個人投資家の場合、今後の為替予測にこの理論が使えるのかを考えると思いますが、現時点では、カバーなし金利平価は単・中期では機能しませんし、カバー付き金利平価はあくまでもフォワードレートのプライシングについての理論なので、予測するものではないのです。
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